こんにちは。今回取材したのは、現在アメリカはワシントン州のシアトルにあるワシントン大学に留学中、社会学部3年生の松下倫子(まつしたりんこ)さん。交換留学とは違う、IBP留学の制度を用いて渡米した彼女に、留学の制度や留学中の体験、アメリカでの就職活動について貴重なお話を伺いました。なお、今回の記事は前半と後半に分かれています。本記事は後編となり、主に就職活動についての内容になっております。それでは、お楽しみください。

前編はこちらから → 「全瞬間が学び(前編)」

実用的な活動を

札場)続いて、後期の活動についてお伺いいたします。9〜11月の間はどのような留学生活を送られていたのでしょうか?

松下)はい。先ほど申し上げました通り(前編参照(一橋名鑑 (ikkyomeikan.net)))、後期からはテーマがガラリと変わりまして、アメリカでの就職活動と、アメリカで仕事を獲得するためのネットワーキング活動です。

そのため、後期の活動は後のキャリアに向けた実用的な活動が中心になります。

札場)なるほど。課外活動について詳しく聞いてもよろしいですか?

松下)そうですね。課外活動としては、アメリカでの仕事獲得のためのネットワーキング活動に励んでいます。具体的には、起業家やスタートアップ、各業界のネットワーキングイベントやシアトル在住の日本人の社会人コミュニティ、などに積極的に参加しています。コミュニティでの集まりに参加することは、仕事を見つけるにあたって大変重要な活動です。社会人と仲良くなって、仕事を紹介してもらうというのがアメリカのやり方なので、なるべくこういうところに参加するようにしていました。

札場)アメリカではそのような就活が主流なんですね。

松下)もちろん、日本のように正規のルートで入社するということもあるんですけど、アメリカの半分以上の仕事がリファラル(仕事をあててもらったり、作ってもらったりすること)から来ているそうです。なので、このようにネットワーキングをして、人脈を広げて、仕事を獲得するということが主流なやり方だと思います。

札場)就活においても、日本よりもより主体的に動いていかなければならないんですね。

松下)なかなか上手くいっていないんですけどね。これについては後ほどお話しします。

ティーパーティーでの文化交流

札場)では、留学中の、現在までの一番の思い出を教えてください。

松下)楽しかったことでいえば、サンフランシスコに友達と二泊三日の旅行に行ったのが楽しかったです。でも、私の中の一番の思い出は、は、アメリカ人夫妻とのティーパーティーです。奥さんであるインドネシア出身のアメリカ人の方とmeet upイベントで出会ったのがきっかけで仲良くなり、隔週でお茶を飲みながら、お話をする会を開催していました。彼らとの文化交流が私の価値観を大きく広げたものだと感じています。

札場)ティーパーティーですか。どのようなことをされていたのでしょうか?

松下)アメリカ•中国の政治や9.11の事件、アメリカやインドネシア、日本で起きている事象に対して意見交換をしていました。一つの事象を、文化や経済発展の状況が異なる三つの国から捉えることで、全く自分の想像しないような考えや新たな視点を獲得することができました。また、日本を相対化して捉えなおすことも出来ましたね。

札場)異なる立場や考え方を持つ人との交流は非常に有意義で面白そうですね。

アメリカ就活での苦悩

札場)では、留学中最も大変だったことは何ですか?

松下)アメリカでの就職活動がとても大変でした。インターンシップに150個応募して、interview(日本でいう面接)に進んだのは10個、オファーをもらったのは5個でした。無給のインターンシップでさえESも通過しないことが続いたので、アメリカにおいて自分は市場価値が殆どない、必要とされていないということを見に染みて感じました。

札場)狭すぎる門ですね。何か原因はあるのでしょうか。

松下)そうですね。まず、英語力が原因として大きいかなと思います。自分の英語力はネイティブには到底及ばないものなので、そこで減点されている部分があるのかと。また、アメリカでは日本のようなポテンシャル採用ではなく、即戦力採用が基本なので、ハードスキルや経験を積んでいるアメリカの大学生との圧倒的な実力差が響いたのだと思います。

札場)ジョブ型採用がメインなのですか。日本とは大きく違いますね。

松下)そうなんです。そのため、大学の設計も非常に実用的になされていて、学生もインターンシップ活動や自主学習等に積極的に参加して、実践的なスキルを磨いています。。あと、就活ではアメリカの学位を持っている人が有利になります。企業から見て安心感があるそうです。

札場)日本よりも大学生の意識や価値が高いとも言えるのかもしれませんね。今まで交流していた中で、最も印象に残っている学生はどのような方でしたか?

松下)そうですね…。ミャンマー出身の17歳の女の子がとても印象に残っており、かつ尊敬しています。ビジネスという文脈からは逸れてしまうのですが、彼女の精神的な強さに感銘を受けました。彼女の母国であるミャンマーは、クーデターによる軍政が続き、国が安定しておらず、彼女自身も高校の教育を受けられていませんでした。彼女はわずか17歳でミャンマーから1人で渡米し、生活費を稼ぎながら大学に通い、アメリカでの自立を目指しています。彼女との出会いは世界平和を考えるきっかけにもなりましたし、同時に世界の理不尽さも感じました。

札場)それはとても尊敬できますね。だらしない学生生活を恥ずかしく感じてしまいます。

価値観とハードスキルのバランスを

札場)続いて、留学前後で変わったことについてお聞きします。

松下)はい。留学前後の変化としては3点あげられると思っています。まずは、グローバルな文脈で自分のキャリアを見つめなおせたこと。グローバルというか、アメリカですね。アメリカの労働市場に自分を置いたときに、自分がどう評価されるのかを身をもって知ることができました。その経験を通じて、グローバルに活躍したい場合は、他国での人材の評価基準を知り、それに向けて綿密に事前準備を行う必要があることを学びました。
   例えばアメリカでは、業界にもよりますが、学歴とハードスキルが重視されます。。私は1、2年時には社会貢献を軸に活動していたのですが、アメリカでは殆どそれが評価されませんでした。アメリカでの評価軸を知らなかったため、戦略的にアメリカの社会で受け入れられるようなスキルを磨く経験を積み上げられていなかったのだと感じています。
   アメリカでの就活を通して、自分の価値観を重視する思考と、ハードスキルを重視する思考のバランスが上手くとれるようになったと思います。

札場)確かに、日本では学生の内からハードスキルを重視することは少ないかもしれませんね。残りの2点についても詳しくお願いします。

松下)はい。2点目が、グローバルな視点で日本を見直すことができたことです。多くの方々と話している中でも、資本主義をもとに社会システムが構築されたアメリカや民主主義ではない中国、宗教をベースに政治が行われている国々の方など、日本と色々な面で大きく異なる国籍の方とお話しするのも非常に面白いです。
   海外の事例の裏には、その国の文化や歴史、制度や国の大きさなど、多様な要素が複雑に絡み合って存在しています。例えば、アメリカで主流になっているjob型採用を日本にそのまま持ってきても、上手く機能しないと思います。これは、日本とアメリカでは文化や制度が異なるからです。その事例がどうしてうまくいっているのか、逆に、日本の事例が海外で見られないのはなぜか、これを考える癖が留学を通じて身についたと感じています。

札場)日本から出たことで、日本を相対化することができるようになったと。

松下)その通りです。そして、3点目が、自己管理が徹底できるようになったことです。親もいなければ友人も少ない環境の中では、自分に向き合わざるを得ず、自己管理の必要性が大きくなっていきます。そのため、いやでも自己管理の能力が養われ、これは今後の人生においても良かったことだと感じています。

札場)大学生は自己管理の度合いによって学生生活が如何様にも変化しますもんね。社会人になっても必要とされる能力。耳が痛いです。

日本人こそ留学に

札場)それでは、続いての質問です。松下さんは友人や他人に留学をおすすめしたいですか?

松下)もちろんです。留学には向き不向きが少なからずあると思いますが、誰がしても得られるものはあると思います。海外で出会った人に冗談混じりで、日本人は保守的だ、英語が喋れないと指摘されることがあります。グローバルスタンダードを知らないとみなされていることもあります。それってとっても悔しいじゃないですか。でも、事実である部分も大きい。そのため、留学などで、外に向かっていくことが求められると思います。

札場)そうですね。留学にハードルを感じている人も多いのだと思います。

松下)お金は一番のハードルだと思います。。私費留学であれば特に。授業料が免除になっても生活費がかかりますしね。その点でも、交換留学や奨学金での留学は非常に良い制度だと思います。

札場)お金って大事ですもんね。松下さんは心理的な面でハードルは感じませんでしたか?

松下)心理的な面では…ないんじゃないかな。ないと思います。治安が少し不安な程度?人間なんやかんや強いので、大抵の場所では生きていけると思います。なので、心理的なハードルはないというか、そこには学べるものしかないと思うのでハードルだと感じていませんでした。

札場)なるほど。語学のハードルも感じませんでしたか?

松下)あー。なかなかに大変な状況ではありましたけど、どうにかなったので、ハードルはありませんでしたね。

全瞬間が学び

札場)それでは、最後の質問になります。松下さんから見て、留学の魅力を一言で表すとどのようなものになりますか?

松下)留学の魅力か…。そうですね…。「全瞬間が学び」「1秒1秒が学び」でしょうか?

札場)なるほど…。やはり「学び」は多く実感されますか?

松下)そうですね。全てが日本と違うので、その違いの理由を考えてみると全てが学びになると思います。価値観の面でも大きな学びが得られますし、アメリカのことはもちろん、日本のこともより深く知ることができます。

札場)それはアメリカでの留学だったからでしょうか?

松下)いや、どこへの留学でもそうだと思います。日本と一緒の国はないので、どこでも常に学ぶことはあるかと。

札場)留学では文字通り学ぶことができ、それが最大の魅力なのですね。

   本日はありがとうございました!

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 いかがでしたか。アメリカでの就活や多くの異文化交流、留学での「学び」等、貴重なお話を多く伺うことができました。留学ではもちろん、それ以外の場面でも松下さんのように常に学ぶことを意識していきたいですね。

 ちなみに、アメリカでの就職活動に励んでいた松下さんですが、2つのお仕事が決まったそうです。松下さんの今後のご活躍を期待してやみませんね!

 この記事が、皆様の視座や価値観を変える一助になることができれば幸いです。以上、松下倫子さんへのインタビューでした。

この記事を書いた人を知る

札場大翔

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