後編では、学生に向けたアドバイスということで、「学生時代に読むべき本」、「学生時代にやっておくべきこと」の2点をご紹介します。

学生時代に読むべき本

――学生時代に読むべきおすすめの本を教えてください。

「会計学者としては、やはりですね、井尻雄士先生の「三式簿記の研究」。ルネッサンス時代に(複式簿記が)出来上がって。その後、 あまりに完璧な理論だから、そこから基本的なフレームワークは変わってない。で、井尻先生は「3面目があっていいじゃない。なんで2面で貸し方借り方なんだ」と。第三の軸があっていいじゃないかっていうのがそもそもの出発点。で、そういうことを発想できるのは学者なんですよ。三式簿記の研究っていうのは、三式って、貸し方、借り方プラス次の3つ目を検討するっていう理論的研究なんだ。」

学術的な本として、「三式簿記の研究」を挙げていただきました。一方で、会計という概念が出来た背景も知っておく必要があるとのことで、歴史に関する本も挙げていただきました。

十字軍遠征の時代、出撃基地では物の貸し借りが頻繁に行われ、それを記録する必要が生じたことがきっかけで、簿記システムというものが発明されました。この一連の流れを知るための本として、「海の都の物語」をおすすめしてくださいました。

「塩野七生先生の、「海の都の物語」っていう連作があって、ベネチアとかフィレンツェが、いわゆる十字軍の出撃基地になった時代を描写した物語だけど。そういうのをやっぱり読んでおく必要があるねと。学術的な本ではないけども、教養として読んでおくべきだよねって思うね。小説だから面白いよ。」

「で、塩野七生先生の1番の著作は 『ローマ人の物語』という大著があるけれど。ローマ時代ってあんまり日本では 歴史の中で重視しない、一時代って感じだけど、全てローマのカエサルのガリア征服によって、今近代ヨーロッパがスタートしてるから。」 

「ヨーロッパ人とコミュニケーションをとるために、ヨーロッパ人の文化とかを知るためには、 ローマ時代を知らないと絶対会話できないですよ。えーなので中国人と喋る時、中国4000年の歴史がないと根本的な会話ができないのと一緒で、ヨーロッパ人とそっから(ヨーロッパから)移ったアメリカ人にもなんだこいつ無知だなって思われて終わるの。それを知らないと(いけない)。」

――そういったことは高校とかで世界史をやらないと、確かに触れる機会がないですね。

「それは小説で今のうちに読んどいた方がいい。そのベストなのは、塩野七生先生が書いてる。「海の都の物語」であったり、「ローマ人の物語」であったり。大著だから。でも、すぐ読める。面白くて。そこらへんが人生に影響を与えたというよりも、その人の人生をよりリッチにするかなと。」

学生時代にやっておくべきこと

次に「学生時代にやっておくべきこと」について伺ったところ、学生時代に心得ておくべき考え方について教えていただきました。 

「うーん…何をするにも必要なのってお金なんですよ。留学だろうが旅行だろうが。で、お金を稼ぐためにバイトをする。でも、1番貴重なお金よりも貴重な時間を犠牲にしてお金に変えてるわけですよ。簡単に言うと。」

「時間を時給という物差しで換金してって感じじゃないですか。だから、結局時間が失われるとやりたいことができなくなる。じゃあ、その時間を確保するためにはどうするかというと、時間価値を換金せずにお金を手に入れないといけない。やはりそうすると奨学金※なんですよ。そういう重要な価値観念を考えると、今思うと、しっかり奨学金をもらって、はい、時間を確保して、それをその時にやりたかったことに充てればよかったな。 留学であり、恋愛であり、なんでもいいけど。」

 ※奨学金について:円谷先生はインタビューの中で「奨学金を借りろとは言えない」と発言されており、インタビューでも奨学金そのものを推奨しているのではなく、「時間はお金よりも貴重なもの」という考えのもとで、時間を使わずにお金を手にする一例として挙げていらっしゃいました。

「時間価値を、かつ、現在価値で言うとこ、あの時に経験しとけば、それこそ、ローマに行ってみるとかね。どっちにしろ、そのために時間とお金が必要になる。で、我々の学生は、その2つを犠牲にしてるわけですよ。」

「お金の上位概念である時間価値を犠牲にしてお金に換金してるわけだよ。そのお金を手に入れれば、その上にある時間というのを失うことがなかったかな。で、学生時代は体力もあるから。もしそれがあれば、部活だってもっと筋トレできただろうし。何したいというよりも、そういう発想で生きるべきだったなと思う。」

――その考え方のところが、大事っていうことですね。

「学生とか見て、ゼミ生見てても、もっと勉強すればいい、この子伸びるのにバイトばっかの話だなっていうね。この子もったいないなって思う子はよくいる。今ちょっとでも本読めば、 すごくもっと人生の選択肢を増やせるのに。将来は。今は本…本じゃなくてもいいんだけど。なんかいつも、「昨日もバイトでした」みたいな。「あー、 もったいないな」っていう子はいっぱいいる。」


円谷教授には1時間以上にわたってインタビューさせていただきましたが、一つ一つの質問にご丁寧にお答えいただきました。

円谷先生へのインタビューを通じてさまざまなことを学ばせていただきました。

個人的に印象に残ったのは、円谷先生が周りの人との縁というのを大事にされていると感じたことです。

お忙しい中インタビューを受けてくださった円谷先生に、心より感謝申し上げます。

一橋名鑑では、これからも一橋大学の先生へのインタビュー記事を作成予定です!

お楽しみに!

この記事を書いた人を知る

永瀬 健翔

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