中編では、大学の先生になってからのお話についてご紹介します。

まずは円谷先生の「大学の先生」というお仕事の内容について伺いました。

*大学の先生は「講師→准教授→教授」という流れのため、「教授」ではなく「大学の先生」という表現を使用しています。

情報開示とコーポレートガバナンス

Q.情報開示とコーポレートガバナンスというテーマを選んだ理由について教えてください。

「会計学をもう5年間ずっとやってると、そこから、新しい分野の研究を新たに始めるって、不可能に近いわけ。なので、会計学からは外れないけれども、何か新規の領域、というか。なぜかというと、こういう財務会計の本とか、ここら辺にあるけれども、いっぱい本がもう何百冊出てるから、そんなの、読みたくないよね。」

「で、さっき言った学者の人は読むんですよ。喜んで読むんだよね。でも、僕は学者に、そもそも学者になろうというよりも、言われてきた(言われたからやった)人だから。できるだけ手抜きたいですよ。というと、他の先生があまりやってない分野。それなら読む本も少ないから。そうすると、情報開示とかコーポレートガバナンスは、当時はまだ新しい分野だったので。」

「今までの学者さんたちがあまり手を出していなかったというのと、実務にかなり近い研究領域だから。で、僕は当時、実務、いわゆるIR協議会という民間の組織でアルバイトもしてたので。」

「比較的、実務家の知り合いも多かったので。そっちの道で行こうかなということですかね。まあ、これも運だよ。」

Q.そうですね、伊藤先生が例えばマーケティングだったら…

「違う話だし、そもそもハンド部の加賀谷さんが伊藤ゼミにいなければ。他のとこに行ってたし。 全部運だと思うよね、ここに来たのは。うん。ここに流れてきたのは、僕はあんまり自分の意思というよりも、 その時々で意思決定してきた累積で今ここにいるっていう感じだけどね。目的を持ってここに来たというよりも、流れ着いてここに来たっていう感じだけどね笑」

Q.一つ気になったのが、新しい分野って手を抜けないのでは、と感じたのですが…?

「人間には、多分2つのタイプがあって、原野を切り開く場合、まずは大木を倒す係の人と、次はその切り株を抜いて土を耕して畑にする人と、多分2パターンある。1人目の人は、伊藤先生もそうだけど、もうとりあえず原野になんか突っ込んでいってっていうタイプ。あと、そういう人が通った後、切り株を抜いて耕して畑にするのが得意なタイプって2つあるんだよ。 どの分野でも。前のタイプだと、孫正義さんとか、ユニクロの柳井さんは多分そういうタイプなんですよ。でも、その下には絶対に見えない、こう突き進んでいった後の荒地を、収益が出るモデルに変える人たちが絶対いるんだ。そこのプロたちが。」

「だから、畑にする人たちの能力は、こういう過去の研究を実際にじっくり読んで、その上に積み上げてっていくし、しっかりステップを踏む。 僕はあの、とりあえず何が出てくるかわかんないから前に進むっていうのが好きだし、やや能力的にも合ってるので。」

「30ぐらいになると自分の能力が分かってくるんだよね。適性が。どういったとこに能力があるかっていうのは大体わかってくるから、逆に言うと、これはできないなっていう。そういう意味では、こういう本を読むっていう能力は僕にはないんだけども、なんか新しいものにいち早く気づいて、そこで誰よりも早く何か発信するっていうのは得意かな。」

「ゼミでもそういう風にして。ゼミ生のテーマは、後期ゼミの話だけど。3、4年生のゼミのテーマはそういう風に決めて、彼らは色々論文書いたり、発表会で発表したりして、評価を得てるので。」

「今年もそういう指導なので、そういうのは、慣れ、なんつうのかな、向いてるんだよね、僕。なので、一橋で、なんとかサバイブして、ま、生き残れてるっていう感じかね。なんかしら、とんがりがないと、絶対生き残れないから。なんか、目の付けどころと、それを、ま、教育の方で、えー、成果として出してるので、まあ、なんとか生き残れてるかなっていう、感じかね。」

教授ご自身の研究と円谷ゼミ

研究内容について伺ったところ、先生ご自身が単独で研究をされるというよりは、ご自身の研究を教育活動に活用している、とのことでした。

「じっくり自分が何かこれを研究するというよりも、いくつかのテーマをある程度知った上で、それを下にこう落とし込んで、それを学生により深くやらせてやろうと。 で、学生がそれをやってきて、本の、本のためというよりも、まずはこういったとこに出して、評価を得て、で、卒業論文の時に、それをこう合わせてきて、本にすると。でも、ただ合わせても横串が通らないから、ゼミで言ったけど、お団子型*になっちゃうから、つくね型にしないといけないから、そこが上に立って、こうマネジメントしてる。っていう感じです。そういう意味では、僕は何かこれにこだわるっていうよりも、コーポレートガバナンスという大きな枠で、次の数年後に出す時に話題になってそうなテーマを、はい、今やらせてると。」

「で、2,3年後に本を出す時には、ま、スリー*を出すときには、確実にダイバーシティの話が、さらにもう今、ジェンダーの話が、男女比率もそうですね。さらにダイバーシティの話が絶対に進んでいるはずだし。あと、 社長とか社外取締役の報酬をどう決めるかっていう話が、よりさらに進んでる、ダイバーシティから。そこを見越して、 研究テーマを設定して、うまく学生が取り組めるレベルまでブレイクダウンして、やらせると。」

*お団子型とつくね型:グループ発表の際に、全体が一つにまとまっているのがつくね型。逆にまとまりがなく、パート毎にバラバラになっているのがお団子型。

*スリー:円谷先生がゼミ生と共同で、研究内容について執筆し出版した「コーポレートガバナンス 「本当にそうなのか?」」「コーポレートガバナンス 「本当にそうなのか?」2」に続く3作目。1作目は週刊ダイヤモンド2018年ベスト経済書ランキング17位。

Q.では、その研究というよりかは、そのゼミを主体にそう考えているっていうことでしょうか?

「これを研究テーマとしてるっていうと、いくつかあって、それこそ、 例えば入社した時の男女比率が数年後に急激に女性が狭まるような会社、つまり、 入り口では女性とるんだけど、結局居心地悪い会社。悪い会社っていうのは、その後、会計利益上もどういった、いわゆる低収益なのかとかね。それは。ロジックがちゃんとあって、女性が辞めるっていうことは、あの、ダイバーシティっていうのは、 えー、同一化させようという力をいかに排除するかってことなんですよ。組織って絶対同一化させようとする。同じ文化に染めようとする。それに馴染ませない。馴染まない人を排除する力が生まれるから、その排除する力を良しとするのがダイバーシティなんですよ。」

「じゃあ、ダイバーシティがなく、単一的な人たちだけでできた組織って、 何か新しい事象に対する突破力がないわけですよ。となると、ビジネス上も劣化していって、収益が落ちる可能性がある。」

「ただ、これは仮説の段階なんです。なので、そういうのを検証しようと。じゃあ、どうやって検証すんだ、という話になると、入社時の女性の比率と管理職の女性の比率と役員の女性の比率。3段階見ると、この場合、ここの管理職は今回初めて有価証券報告書で開示が始まる。 じゃあ、入社時の女性の比率ってどこに書いてあるんだ。というと、今度はリクルーター。あの、いわゆる求人サイトとかに出てる。財務報告の情報じゃなく求人サイトなので、財務報告上の管理職の比率と求人サイトに出てる比率とかを似て非なる情報源を集めてくることによって、すごい今まで誰もやってない検証ができるようになる。で、そういう風な説明をすれば、「あ、わかりました。じゃあ求人サイトとりあえず全部見ればいいんですか。」みたいになるんです。例えば。」

「そこまでアイデアを落とせば、学生は手を動かせるからで、それは 今の世の中の研究にはないんだよ。今言ったような情報の融合とか。そういうのがすごく複雑に絡まってるから、君らしかできない作業だから。これを文章にして出せば、締め切りまでに出せば、 絶対入賞できるから。」

「実績があるからね。実際に。400万ぐらいも賞金もらってるからね。先輩たちが。」

「目標は、卒業後にはそれを本にすると。で、実際、これも1,2も本にしています。あの、書いた人たちの名前は絶対出すと。その、ここにね、出すって言ってるから。それだけでも励みになるから。そうですね。自分の書いた本が書店に並ぶって嬉しい。で、それなりにこう、あのビジネス書ランキング、年間で17位だったんだけど、今回は、ま、15位以内を目指そうかなと。そういう風になればもっと嬉しいだろうし。 」

企業でのプレゼン機会

後期ゼミではある程度のところからは生徒が研究を進める、という方式を取っている円谷先生。実は他に、導入ゼミでも実際にある企業に行って「統合報告書*を読んで感じたこと」などのテーマで生徒がプレゼンをする、といった機会を設けており、筆者も実際に経験しました。そこで、学生のプレゼン機会を設ける狙いについてお聞きしました。

*統合報告書:企業が投資家や株主等に向けて作成した、企業としての取り組みなどの非財務情報や決算報告などの財務情報が掲載されたもの。

「えっと、理論も大事なんだけど、商学部って。(でも)相手が企業じゃないですか。“事件”は企業で起こってるわけだから。は。本の中では起こってないわけだから、企業を見に行かなかったら意味ないじゃないですか。そう、“事件現場”をまず見るのが大事。1番なんじゃないですか?っていう。ただ、それに尽きる。まずはもう1回その現場を見て、触れてみるっていう。事象が起きるのは企業であって、より具体的に言うと、大手町であり、丸の内であり、六本木でありと、そういうところだから。国立では起きてないからですね。“事件“はね。そういうとこに行って、当事者たちに会ってその空気を嗅がなければ、ダメなんじゃないですか。商学部生としてはもう、それに尽きるんだよね。」

実際に起こっていることを間近で見ることが大事、ということでした!

趣味

次は研究と少し異なりますが、先生のご趣味について伺ったところ、意外な返答が。

まず大学院が非常に大変で、先生になるまでは無趣味で大学院を過ごしてきたため、「今更始める(大がかりな)趣味がない」とのこと。さらに大学の先生になってからは研究や教授としての生き残りの競争が厳しく、例えば旅行に行くとしても、研究は継続して行うとのことでした。「いわゆるお金と時間がかかるものを趣味にしてる先生はいないはず。手頃でというか、大がかりな装置とかなくて、できるものぐらいしかできないんじゃないかな。ただ、今はあえてスタンプラリーとかやってるけれども、名城スタンプとかあるの知ってるかな?日本名城とか。あ、マンホールカード集めとか、ダムカード集めとか。そういうのがあるんですよ。で、そういうのがないと。もう仕事以外のとこに強制的に。(むかわせる)仕事もずっと研究室にいて、家でも自分の部屋にいて何かやってる。 趣味というよりも、治療の一環というか、職業病を顕在化させないための、こう、予防薬的にやってるだけだから。それが好きで好きでやってるってわけではないっていう感じですね。」


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永瀬 健翔

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